何軒の農家さんを訪ねただろう。

農薬や化学肥料、家畜糞は必要ではないことを伝えて回った。
「農薬を使わなければ、売れるようなものは絶対に育たない」。
相手にさえしてもらえなかった。

ある日、ひとりの農家さんが言った。
「黒豆は何度も消毒しないと絶対にできないと言われている。
それでもやりたいなら、あなたも一緒に作ってください」。
農業のプロが、素人の薬剤師の言葉に、初めて耳を傾けてくれた。

問題が発生するたび、共に悩み、共に考えた。
周囲の「無理だと言ったのに...」という声が、
脳裏に浮かんでは消える毎日だった。
長く辛い夏が終わり、収穫の秋が来た。
大きく丸々と育った黒豆は、
無農薬でも育つことの証だった。

生きた土で育った、生きた黒豆を食べた多くの人が、
その美味しさに感動した。
その感動の言葉が、農家さんをさらに感動させた。